住宅などに旅行者を有料で泊める「民泊」の普及に、東京都内の多くの区が慎重な姿勢を続けている。
政府が規制を緩和して約半年たつが、練馬区は民泊施設にフロント設置を求める要綱を策定。江東区は近隣住民に説明するよう条例を改正した。
政府は民泊の拡大を後押しするが、無許可営業や住民の反発といった課題がなお大きいようだ。
民泊を営むには旅館業法の「簡易宿所」の許可を得る必要がある。厚生労働省は4月に同法の政令を改正し、
それまで客室の延べ床面積が33平方メートル以上必要だったのを、
定員が10人未満なら一人あたり3.3平方メートルに定員数をかけた面積以上に変更。緊急時に対応できることを条件に、
フロントの設置も必要ないとの通知を出した。
訪日客が急増している東京都内は民泊の需要が国内で最も大きい。大田区は1月から、旅館業法の規制緩和ではなく特区を活用した民泊を解禁。
区内では宿泊施設が徐々に増えている。ただ、都内に限らず無許可で民泊を営む業者も多く、
周辺住民からの苦情も目立つ。新宿区では、住民からの苦情件数が4~9月に115件と、すでに昨年度(95件)を上回った。
こうした状況の中、練馬区は9月、旅館業の営業許可に関する取扱要綱をつくり、民泊を始める業者には許可申請前に計画を住民に公表し、
説明するよう求めている。
もともと区の旅館業法施行条例に入っていなかったフロントの設置を盛り込み、管理者や従業員などの常駐も求めた。
区の担当者は「練馬区は住宅都市。規制緩和は全国一律ではなく、各地域の事情を考慮すべきだ」と話す。
江東区は政府の規制緩和を受け、6月下旬の旅館業法施行条例の一部改正で、条件付きでフロントを設置しなくてもよいことにしたが、
同時に事業者向けの義務も盛り込んだ。
改正条例では、民泊施設を建設する場合、住民に建設計画を周知するための標識の設置や、住民説明会の開催、個別訪問などで計画を説明するよう求めている。
「トラブルを防ぐためには、事前の説明が重要」(同区の担当者)。区内では4月から民泊開設に向けた相談が約80件寄せられている。
政府の規制緩和より前にフロント設置を義務付けているのは中央区や新宿区など。
中央区の担当者は「ホテルが足りない事情は分かるが、住んでいる人の住環境や安全を守る必要がある」と話す。
浅草や上野などの観光地を抱える台東区は、規制緩和の直前の3月末に条例を改正。営業時間内に従業員が常駐することやフロントの設置を求める規定を入れた。
■「特区民泊」、大田区先駆け/滞在条件・営業日数、
課題も民泊は旅館業法に基づいたカプセルホテルと同じ「簡易宿所」の許可を得て営業するものばかりではない。
国家戦略特区での規制緩和を活用して旅館業法の適用を外したいわゆる「特区民泊」もある。東京都内では全国に先駆けて大田区で動き出している。
同区によると、1月の条例施行後、民泊利用の認定を受けた物件は徐々に増え、現在25カ所の79室。
夏には特区民泊を使って商店街での買い物や銭湯などを楽しんでもらう体験滞在を企画し、フィリピンからの一家や台湾の女子大生が訪れた。
ただ特区民泊は6泊7日以上の滞在などの条件があり、使い勝手がよくないとの指摘もある。
政府は25日の閣議で2泊3日以上の滞在から利用できるように政令改正を施行したが、自治体が条例で認める必要がある。
大田区では住居専用地域での民泊も認めていない。
政府は訪日客急増を背景にした都市部の宿泊施設不足解消やモノを貸し借りする「シェアビジネス」の普及を狙い、
新たな法律を制定したうえで全面解禁する方向だ。
ただ自治体では近隣住民の生活への影響を懸念する声が根強い。
宿泊客を奪われる旅館業界などからの反発も強く、年間営業日数の上限をどうするかの調整も難航。
当初は今の臨時国会への提出を目指した新法も来年の通常国会に先送りとなっている。
新法を見極めてから対応を考えたいと、様子見の自治体も多い。
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